その床屋は高校の向かいにある
50過ぎぐらいのおかみさんが一人でやっていて
理髪する椅子も一つしかない
2階は住居になっているらしく
時折ピアノかなにかを引く音がする
ほかに
おかみさん以外の人はついぞみかけることはない
もっと立派な床屋は福島市にも何軒かあるだろう
しかし私は
高校の向かいの床屋が好きだ
その小さな店に
仄かに愛おしさを感じている
中野重治の詩に「たばこ屋」という作品があるが、このタイトルの「小さな床屋」はこれはモチーフに創作した。件の床屋は私と息子が利用している。自宅から徒歩2分ぐらいと近く、人と喋るのが苦手な私にとっては、あまり話しかけもせず、かといって横柄ではないこの店の対応には満足している。
さて中野重治だが、以前にも書いたが、初期の作品には感受性が豊かなものが多く、結構いい作品があるのだが、プロレタリアート運動にかかわった作品は、あまりいいものはない。中野夫妻(婦人は女優の原泉)が亡くなってから随分と時が経つが、激動の時代を生き抜いた彼らには今の日本の現状をどう感じているのだろうか?
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