五つの池の喫茶店

私が日々思っている事を徒然なるままに書き綴ってみました。興味のある方はお立ち寄りください。OCN CAFEに2004年9月から記載された日記をOCN Blog人に引き継ぎ、さらにこのHatenaBlogに移設いたしました。

TPPと大店法

 日本がTPPに参加するしないで、国会内及び政権与党内で揉めているようだ。‘言うだけ番長日刊ゲンダイより)’の前原や‘赤い官房長官だった’仙石などが民主党内のTPP参加反対派に対して暴言を吐いたとかで問題になっている。TPP推進論者よれば、「バスに乗り遅れるな」、「平成の開国」、「関税撤廃で日本の製造業は恩恵を受ける」、「TPPに参加しなかったなら日本は世界の孤児になる」などと言って参加を煽っているが、ちょっと待ってほしい。背景にアメリカがいることをお忘れなく。この国が絡むとロクなことはない。

 戦後日本はアメリカに法律しかり経済政策しかりといろんないちゃもんに近い要求を突きつけられた。盲目的に日本は従ってきたが、果たしてそれで日本国民が幸せになったのだろうか?答えは勿論、否。日米関係における日本はさながら放蕩息子に金を毟り取られる老人か性質の悪いヒモに苦しむ美人ホステス、或いはDVに悩む薄倖な美人妻の姿のように思えてならない。

 かつて大店法(大規模小売店舗)という法律があった。百貨店や量販店などの大型店の出店に際して、既存の中小零細商店の事業活動を保護し、小売業の発展を図るために作られたものである。大型店の出店には地元の商工会議所の意見を聴くことが定められており、それに沿って商業活動調整協議会が設置され、そこで長期間かけて大型店と地元商店街の利害関係が調整される。私が販売職だった頃、横浜市金沢区ダイエーが新規出店したが、地元の商店主に聞いたところ出店要請から実際の出店まで約20年近く掛ったそうだ。大店法既得権益の擁護の件で問題を孕んでることもあったが、地元商店街と大型店が共存共栄を図り、お互いが助け合うことで街全体を活性化していた。(と少なくとも私はそう思っている。)

 この大店法を廃止に追い込んだのはアメリカだった。90年代に入り、既に自国の経済に衰退の兆しが見えていたアメリカは日米の貿易不均衡を是正するため規制緩和を強く日本に要求し、この中に大店法の撤廃も含まれていた。折しもこの時期にトイザらスの日本出店が暗礁に乗り上げていた。さらに1995年にはアメリカのコダックが自分の努力は棚に上げ、「日本で自社の商品が売れないのは閉鎖的な市場があるから」といちゃもんを付け、大店法もそのひとつだとした所謂「日米フィルム戦争」が勃発した。こうしたアメリカからの圧力に屈し、日本政府は大店法を廃止することを決め、大規模店舗立地法(大店立地法)が成立、施行した2000年に大店法は廃止された。大店立地法は大型店の出店を規制しておらず、大型店は何時でも何処でも出店することができるようになった。

 ではその結果どうなったか?私は静岡県藤枝市に住んでいるが、藤枝駅前の商店街はシャッターを閉めた空き店舗が目立つ。買い物客で混雑が予想される夕暮れ時でさえ寂しいものである。お隣の島田駅藤枝駅以上に寂れ方が激しい。これは静岡県だけの問題ではなく今や日本全国の商店街の大半が寂れ切っているのだ。日本の商店の店舗数は1982年の172万店舗をピークに減り始め、2007年には113万店舗にまで減少している。減少したのはほとんど中小零細店舗である。また自由に出店できた大型店も過当競争に負け撤退する店舗が増えている。こうして活気の消えた街には失業者で溢れることになった。大店法は問題もあったが、この法律は単に地元商店街の利益を守るためだけのものではなく、地元商店街で働く人たちの生活や地域社会全体を守っていたのである。結果的にアメリカの押し付けは商店街で生きる人々のささやかな生活を奪ってしまったのだ。

 TPPに話を戻そう。TPP参加是非については、大店法の例もある通り、安易にアメリカの思惑に乗れば必ず痛い目に合う。今度は取り返しのつかない事になるかもしれない。マスメディアはほとんど触れていないが(NHKの討論番組でちょっと話題になったが)TPPには「ISD条項」というものがある。「ISD条項」とは投資家と国家の紛争解決手段で、投資家とその本国は現地の法律や規制で投資活動が抑制された場合に、相手国の政府を相手取って訴訟を起こすことができるというものである。紛争解決の手段として、国際投資紛争解決センターに訴えるのだが、ここはほとんどアメリカ人で占められており、必然的にアメリカの利益が最優先されることになる。しかも審議は非公開と言うおまけ付き、実際カナダ政府はアメリカの企業に訴えられ法律を変えさせられたしまったし、アメリカと二国間の貿易協定を締結した韓国政府も、アメリカ政府のみがセンターに提訴でき、逆はない片務性のため国内で大規模なデモが発生している。こうした危険極まりない「ISD条項」についてわが日本の最高責任者の野田総理は国会審議で知らなかったことを露呈しているのだからお粗末な事だ。

 TPP参加が幕末の開国と比較されるが、当時の政府関係者と今のボンクラ政治家を比較すること自体、歴史を冒涜することになる。当時の日本政府は不平等条約撤廃にそれこそ心血を注ぎ、日本を世界の一等国にするため命がけで西欧列国と対峙した。今の政治家にその気概はあるのだろうか?民主党政権は情けない事だが、アメリカに対して明治の政治家が命がけで獲得した自主的な外交権を、逆に自らの政治的延命のために首を振ってアメリカに献上しようとしている。今やアメリカの国力は急速に衰えており、恫喝や汚い手を使っても経済の回復は見えてこない。沈みゆくアメリカに対して、TPPを逆手に取って、決してアメリカの言いなりになってはならず、日本の国益を最優先させるべきだ。アメリカは終焉の時がきたのだ。そんなアメリカと一蓮托生なんてどうかしているぜ!

 

追伸:この日記を作成するため以下の文献を参照にしました。
 三浦展 「ファスト風土化する日本」 洋泉社
 三浦展 「下流社会」 光文社新書

 

 ちなみに「ファスト風土化する日本」は福島に赴任した直後(2005年6月)に購入した本で、県庁所在地である福島市の中心部も日記で書いたようにシャッターの閉じた商店が目立ち、週末でさえ駅前の商店街は閑散としていました。これに対して福島県は「県広域まちづくり検討会」を開き、これまでの大店立地法の弊害を指摘、大規模店舗の出店を規制することにしました。検討会の会長である福島大學の鈴木教授はアメリカ型の規制緩和に警鐘を鳴らしています。このように真摯にアメリカ型市場原理主義の矛盾点を指摘した福島県が震災と原発事故で壊滅的打撃を受けるなんて・・・。あり得ないことかもしれませんが、アメリカの陰謀かと思いました。

 

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