五つの池の喫茶店

私が日々思っている事を徒然なるままに書き綴ってみました。興味のある方はお立ち寄りください。OCN CAFEに2004年9月から記載された日記をOCN Blog人に引き継ぎ、さらにこのHatenaBlogに移設いたしました。

脂肪のかたまり

 脂肪のかたまり、この言葉を聞くと私はタレントの柳原可奈子を思いつくが、今回はモーパッサンの小説である。もっともこの小説の主人公‘脂肪のかたまり(原題: Boule de Suif )’は柳原同様愛くるしい女性である。(確か?高校生か大学生の頃読んだのであまり記憶があやふやです)しかし柳原が華やかな芸能界の華であるのに対して、この‘脂肪のかたまり’は裏の世界の華、すなわち‘娼婦’である。

 小説のあらすじは、以下の通り(うろ覚えなので、Wikipedia参照にしました)

 普仏戦争プロイセンに敗退したフランスが舞台。軍に占領されたルーアンからル・アーブルへ向かう乗合馬車、乗客は、脂肪のかたまりと呼ばれる娼婦、民主主義者、上流階級に属する夫婦3組、2人の修道女ら10名。当初は脂肪のかたまりを冷遇していた乗客たちだが、腹を空かせていた彼らに彼女が食糧を分け与えたため、態度は一変する。

 馬車はトートという村に到着したが、そこはプロイセン軍に占拠された場所だった。プロイセンの士官は理由を述べず一行 を拘留し、出発することを禁止する。実は脂肪のかたまりがプロイセン軍の士官がと寝ることを拒絶しており、そのため拘留されてい たのだ。彼女は愛国心からプロイセンを激しく憎んでいたのだ。

 当初は彼女を支持し、士官の傲慢さに憤慨してした上流階級と修道女、所謂‘高貴な人たち’だが、脂肪のかたまりが士官と寝ないために足止めされているのだと知り、憤り の矛先を彼女に変えていった。彼らは歴史上の偉人や聖人を引き合いに出し、脂肪のかたまりが士官と寝るように画策する。彼女は結局彼らの説得に折れて士官と寝た。そして彼らは翌朝出発する事を許可された。

 ル・アーヴルへの道中、‘高貴な人たち’は脂肪のかたまりの犠牲により出発出来たにも拘わらず、彼女を汚物のように接する。挙句には、旅の始めに彼女のお陰で空腹から救われた事を忘れ、自分達だけで持参した弁当を食して彼女に勧めることはなかった。脂肪のかたまりが屈辱と怒りで煮えくり返っている中、拘留中は別行動をとっていた民主主義者は高貴な人たちへのあて付けのようにフランス国歌‘ラ・マルセーズ’を口笛で吹き、歌う。高貴な人たちは忌々しく思い、耐え切れなくなった彼女の慟哭が馬車に響く。

 1880年に発表されたこの小説でモーパッサンは作家としての地位を確立した。この小説を読んだ師であるフローベールは「間違い無く後世に残る傑作」と絶賛したそうだ。モーパッサン自身も普仏戦争に一兵卒として参加しており、敵であるプロイセンや戦争自体を憎む気持ちが強かったようである。映画監督のジョン・フォードは代表作「駅馬車」は脂肪のかたまりだと語っている。(ちょっと違うんではないかと思うけど・・・)

 人間の持つ偽善性や醜悪さを描いたこの作品、30年前にこの小説を読んだ印象は‘高貴な人たち’に激しい憤りを感じたが、それ以上にラストで民主主義者の歌う‘ラ・マルセーズ’と慟哭のコントラストに強烈なインパクトを感じ、この演出は凄いなあと甚く感動したことを覚えている。フロベールもこのシーンを絶賛しており、人間の心にある闇を取り上げた点においては考えさせられる作品だと思う。

脂肪のかたまり (岩波文庫)

脂肪のかたまり (岩波文庫)

 

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